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最高裁判所第二小法廷 昭和30年(オ)177号 判決 1956年10月05日

小松市土居原町三一番地の一

上告人

小松瓦斯株式会社

右代表者代表取締役

宮越久作

右訴訟代理人弁護士

村沢義二郎

小松市八幡町ヨ九番地の二

被上告人

坂本弥三郎

右当事者間の報酬金並びに配当金請求事件について、名古屋高等裁判所金沢支部が昭和二九年一一月二二日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告申立があつた。よつて当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人村沢義二郎の上告理由について。

第一、原判決の認定するところによれば、上告会社の臨時株主総会は、同会社の第五十八期(昭和二七年一月一日から同年六月三〇日まで)における同会社の取締役及び監査役の受くべき報酬総額を金四〇万円と決定し、各取締役及び監査役に対する右報酬金の支払並びに分配方法を取締役会の決議に一任したので、昭和二七年二月七日取締役会は右株主総会の決議に基き前記報酬金四〇万円の配分について結局二六万七千円を社長及び専務取締役の第五十八期報酬に当てることとし、右両名の間における報酬の配分並びに支払方法を社長たる被上告人に一任する旨の決議をしたというのであつて,所論のように、被上告人が右報酬の配分を決定するにつき専務取締役たる宮越久作と協議することを要するとか、協議の調わなかつた場合には更に取締役会の承認を受けることを要するというがごときことは、原判決の認定しないところである。されば、被上告人が当時、原判決認定のごとき事情によつて専務取締役たる宮越久作の同意を得ることは期待することができなかつたので、その一存をもつて原判示のように自己の受くべき報酬額を決定したからといつて、右取締役会の決議の本旨に反するものでないことは勿論であり、また前述のとおり、取締役会の決議によつて社長に一任された社長、専務取締役に対する報酬の配分を社長が決議の趣旨に従つて決定したに過ぎないのであるから、何ら、商法二六五条に触れるところはないのである。

第二、前述のごとく、取締役会の決議に従い、社長が正当に一営業期間内自己の受くべき報酬額を決定した後においては、社長の同意がないかぎり、取締役会といえども、右報酬額を変更することはできないものとした原判決の判断は正当である。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎 裁判官 池田克)

上告代理人村沢義二郎の上告理由

第一、原判決は「被上告人坂本弥三郎は(原判決書第八枚目裏八行目以降摘示)取締役会の決議に基いて社長たる自己の受くべき報酬を月額二万三千円、専務取締役の受くべき報酬を月額二万千円と決定し、同年三月二十七日その旨を会計係取締役和田学次に告げてその支払を請求したものである。」との旨を認定し、しかも、右坂本が、自らの報酬を自らのみの意思で決定したことは、適法であり、従つて、上告人に支払義務ありと判示したのである。

思ふに会社取締役に対する報酬額の決定は会社にとつては、その額を支払ふべき義務を負担することであり、当該取締役にとつては会社に対してその額の支払を請求し得る権利を取得することであつて、会社と取締役双方にとつて利害の反する行為であることは云ふ迄もない。

而して、本件の場合、原判決の認定した事実は上告人会社の昭和二十七年二月七日の取締役会は取締役に対する第五十八期の報酬額四十万円の内二十六万七千円を社長(被上告人)及専務取締役(宮越久作)の報酬に当てること、右両名間の報酬額の配分及び支払方法を社長たる被上告人に一任する旨決議し、被上告人はその決議に基き被上告人に対する報酬額を月額二万三千円と決定した(宮越久作はこれを承諾しなかつた)と云ふのであるが、若し坂本、宮越両名間に於てその報酬額の配分に付て意見が一致したとするならば問題は別であるがこの両者間に意見の一致を見なかつた本件に於ては尠くとも被上告人は更に取締役会に諮つて自らに対する報酬額の決定に付てその承認を受くべきものと解さなければならない。

元来取締役会が被上告人に二十六万七千円の配分を一任したとしても、それはその額の範囲内に於て、無制約に決定せよと言ふ意味ではなく、権利者の一人たる宮越久作と協議し、その承諾の下に配分せよとの趣旨に解すべきであり、宮越久作の承諾する妥当な報酬額を含めての配分を為すべきものであつて、若し、宮越の承諾を受けることが出来なかつたとすれば、改めて、取締役に諮つて決定すべき筋合のものである。上叙の様に取締役が会社から報酬を受けることは、会社と利害対立する行為であつて、元来この額の決定は具体的に取締役会の承認を受くべき事項であること、商法第二六五条の法意によつても明らかであつて、只、配分を一任されたからと云つて、宮越の意向を無視して自ら単独で決定すると云ふことは取締役会の決議の本旨でもないし、又商法第二六五条の精神にも反することである。即ち、被上告人が、自己に対する報酬月額を二万三千円と決定し、これを会社に通知した行為は商法第二六五条に反し、無効のものであると解すべきであるが、これと反対の見解に立つ原判決は破棄せらるべきである。

第二、次に原判決は一旦、確定された報酬額はその後の取締役会の決議を以てしても、当該取締役の同意なき限り、減額し得ないとして上告人の主張を排斥したが、取締役会は従来の取締役会で決議した事項に付ても事情によつては、これを有効に変更し得るものと解すべきであつて、只、旧決議により、既に実行を終つたことに付て、これを遡及して失効せしめる様なことは妥当ではないが、未だ実行を終らない事項に付ては必要によつて随時変更し得るものと云わねばならない。

本件に於ては仮令被上告人が月額二万三千円なりと決定したとしても会社はこれを実行してはいない。只仮払いとして六万円を支出してあるだけであつて、報酬それ自体としての支払はしていないのであり、しかも、同年四月以降被上告人は出勤せず、自己の職務を怠つているのであるから、これを減額変更することは会社のため取締役会として、なし得る当然の措置でもあり、それに付て、当該取締役の承諾を要するものと解すべきではないのであつて、これと反対の見解に立つた原判決は破棄せらるべきものと思料する。

以上

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